ペットシッターの春名です。3月度の読書会は、たくさんの参加があり、非常に盛り上がりました。参加者の皆様、どうもありがとうございました。
4月度は私、春名がホストを務めさせていただきます。課題図書は、『愛のようだ/長嶋有』です。
著者をすこしご紹介しておきましょう。
1972年生まれの男性作家。2001年に「サイドカーに犬」で文学界新人賞を受賞し、デビューします。その後、2002年に「猛スピードで母は」で芥川賞、2007年に「夕子ちゃんの近道」で第1回大江健三郎賞を受賞。つまり、いわゆる“純文学”畑を歩いてきた作家です。
「純文学ってったらあれでしょ、むつかしいこと書いてあったり、詩みたいな文章だったりして、めんどくさいやつでしょ?」
そんな風に思われる方がいらっしゃるかもしれません。事実、純文学にはそういう作品もあります。古井由吉や高橋源一郎を読みこなすのは簡単ではありませんし、町田康や舞城王太郎あたりでも僕は苦戦します。が、長嶋有はそうではありません。今回の課題図書『愛のようだ』に難しいところはひとつもなく、実にさらさらと読めます。
主人公は、四十代の男・戸倉。彼が運転免許をとるため自動車教習所に通うところから物語は始まります。無事に免許を取得し、さっそく友人たちとドライブにでかけるのですが、なんとこの小説、ほぼ全てのシーンが車の中か高速のサービスエリアで占められており、つまり究極の“ドライブ小説”なのです。
車の中で彼らは、他愛もない会話をくりかえします。BGMで流れる「北斗の拳」や「キン肉マン」などのアニメソングで盛り上がり、バイクの美女を見つければ追いかけ、タンクローリーの背面に自分達の車を映しては悦に入る。やっていることは、まるで子供です。そんな彼らにも厳しい人生はあり、困難や試練を抱えていたりします。それでも、あからさまに辛そうな素振りはみせません。本作では、単純な苦労話や人情話に流れず、楽しく読み進めるなかでじわじわと主人公達の置かれている立場が明かされていきます。
著者と同じ、四十代前後の人にとっては、連発されるあるあるネタで楽しむことができるでしょう。そして、誰にとっても読みやすく、でもなにか心に引っ掛かるものを感じるはずです。タイトルからして恋愛小説を想像されるかもしれませんが、それは当たっているともいえるし、当たっていないとも言えます。すくなくとも、クサいセリフが頻出したり、いかにもお涙頂戴のような小説ではまったくありません。
人の心の動き、それから外部にあらわれる言動が、いかに微妙で複雑なものか。長嶋有は、難しい言葉は何も使わずに表現してみせてくれます。カーステレオで流れる曲のように、喜びや悲しみ、軽いことと重いことが、順不同で表れるのが人生です。本作は、なんでもない人達のなんでもない人生、それでも確かに貴重で美しい人生を、車の中の景色からすくいとってくれる作品なのです。
平明な文章のわりに、いい言葉がたくさん詰まってもいます。最後に、僕のいちばん好きな文章を引用しておきましょう。主人公が、中島みゆきの曲を思い出しながらつぶやく言葉です。
〈ヘッドライト・テールライト。どこかから来て通り過ぎる黄色い光。どこかへと向かう赤い光。それらが寄り添ってつながって、今まさにその渦中に我々はいる。それは我々の営みの象徴だ。〉
それでは次回の読書会は、4月1日(金)の20:30からとなります。180ページほどの短くて読みやすい小説ですので、ぜひ一度、読んでみてください。多数のご参加をお待ちしています!
この記事を書いた人
- 読書会メンバーの中では年長組に入りますが、毎回とても楽しく過ごさせてもらっています。スロース読書会は、人付き合いもおしゃべりも得意ではない僕さえ包み込んでくれる、心地のよい居場所なのです。
ブログでは、読書会関連として、本の話題を中心にお届けする予定です。ただ、極端に遅読なため、最新本は扱えません。僕のお気に入りの本を、なんとか現代の話題とリンクさせ(ることを目標にし)つつ、映画やその他の話題にも触れていきたいと思っています。
ちなみにペットシッターとは、飼い主さんのご自宅で、ペットのお世話をする仕事です。1967年、兵庫県に生まれ、名古屋での25年を経て、岡崎にたどり着いた今。近隣市を駆け回り、いろんなペット達と触れあう、ふかふかな西瓜糖の日々。
・お仕事サイト「ペットシッター・ジェントリー」
・Facebook(お仕事用)
・個人サイト「Sea Lion Island」
・Facebook(個人用)
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