5月度喫茶スロース読書会「女のいない男たち」②

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連続ハルキ小説 「もしもスロースに村上春樹の小説の主人公が来たら」第2回

前回はこちら

「それであなたは」
僕の部屋で4杯目のグレンフィディックを空にした彼女は言った。
「本の感想は自分一人で独占しておくべき、と考えているわけね?まるで強欲な石油王みたいに」

「強欲な石油王とはずいぶんだ。せめて、大切な骨を庭に埋める犬、くらいにしてもらいたいな」
彼女は僕の控えめな抗議を無視して、僕の部屋の本棚を眺め、それから一冊の本を取り出した。
村上春樹が去年発表した長編小説だ。

「じゃあ、例えば、この『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』の感想を聞かせて」

弱ったな、と僕は思った。
なぜ村上春樹が十代の恋愛や友情に、60歳を過ぎた今も、こだわり続けなければならないのか、よく分からなかったのだ。

彼女はいたずらっぽい表情で続けた(ただし、黒目がちで柔らかい毛に覆われた彼女の表情を正確に読み取ることは、プーチンに対するそれと同じくらいに困難だ)。

「あなた、この本がよく分からなかったんでしょう。顔にそう書いてある」
「残念ながらね」
僕は負けを認めた。礼儀正しいフェンシング選手のように。

「この本を読み解くヒントはね、自分の中のヤンキー性とどう向き合うか、ということなの」

ヤンキー性。まったくもって聞き慣れない言葉だ。

「彼の作品の登場人物って、いつも理屈っぽくて、情に流されず、家族や友人とも距離を置いた人ばっかりでしょう」

その通りだ、と僕は目で相づちを打つ。

「そんな村上春樹ですら、ヤンキー性、つまり絆とか友情とか、若者特有の集団心理と言ってもいいかもしれないけど、そういう感情から逃れてきたという事実に、耐えられなかったってことなのよ」

実に奇妙な夜だ。
小さな喫茶店で知り合ったばかりのナマケモノに、ムラカミの解釈でやり込められている。
こんな状況はカフカでも思いつかない。

「でも、私に言えることはそれだけ。あとは自分で考えなさい」

突き放された僕は、宇宙を彷徨うライカ犬のように途方にくれながら、レコードを選び、ターンテーブルに乗せた。

頭の中が整理できない時、僕はいつもこのアルバムを聴き、こう尋ねる。

なぁ、ブライアン。僕はどうするべきなんだろうか?

ペット・サウンズね。懐かしいわ」

優しくて儚げなハーモニーの合間から聞こえてきたのは、またナマケモノの声だった…。

 

ー続くー

-5月度喫茶スロース読書会-
日時:5月23日(金) 20:30〜22:00くらい

会費:1000円(1ドリンク付き)

課題図書:村上春樹著 『女のいない男たち』

-ドリーミー刑事のブログ-

ドリーミー刑事のスモーキー事件簿:http://dreamy-policeman.hatenablo

この記事を書いた人

ドリーミー刑事
ドリーミー刑事喫茶スロース読書会広報係Twitter:@slothcoffeebook
ドリーミー刑事(会社員)
スロース読書会の常連。
日々、古今東西の素敵でキャッチーな音楽を追い求める夢見みがちなおっさん。B型。犬が好き。

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