ボビーが宇宙人と闘っていたとしたら!?

ダークスカイ

ペットシッターの春名です。年末年始は、お正月の一番忙しい時に雪が降ったりして焦りましたが、無事に繁忙期を乗り切ることができました。というわけで久しぶりのブログ投稿となります。

だいぶ日が過ぎてしまいましたが、前回の読書会の課題図書「ゴランノスポン/町田康」には、日本史の一幕を町田康的に翻案した「楠木正成」、源氏物語を翻案した「末摘花」が収録されていました。僕はいろんな分野の小説を読みますが、苦手なものはいくつかあって、その一つが歴史小説・時代小説です。特に国内ものの場合、武将の名前が連なって出てきたりすると読む気が萎えてしまいます。それでも読ませてしまうのが町田康の筆力なのでしょうが、そもそもこうした歴史や古典の再解釈、裏面史といったアプローチには、尽きせぬ魅力があるものです。誰もが知っている事実が実はこういうことだったんだよとか、この事件の裏にはこういう人が暗躍していたんだという陰謀論めいた話は、いつでも盛り上がりますよね。僕も大好物です。というわけで、今回はそうした作品をいくつか紹介してみたいと思います。

・「邪馬台国はどこですか?/鯨統一郎(くじらとういちろう)」
邪馬台国はどこですか? (創元推理文庫)とあるバーを舞台に繰り広げられる歴史談義をネタに、6つの短篇が収められています。バーに集まるのは、バーテンダーの他、日本古代史研究の第一人者である三谷教授、助手を務める才気煥発な静香、そして怪しげなライター宮田の3人。この宮田が吹く大胆な仮説を巡り、論争が繰り広げられるのです。

たとえば表題作。邪馬台国の場所は九州か関西のどちらかというのが定説となっていますが、宮田はそのどちらでもなく、本当は東北にあったのだと断言します。驚く教授と静香をよそに、宮田は独自の研究にもとづく自説を展開し、最後は二人を納得させてしまう。そして、宮田の持ち出す証拠や文献は全て事実が元になっているため、本書を読む者も同時に、彼の説に納得させられてしまうのです。

宮田の説は他にも、聖徳太子の正体は推古天皇だった、織田信長の死因は自殺だった、などと続き、さらには、ブッダは悟りなど開いておらず妻の浮気に悩んでいた、イエスは十字架にかけられなかった、と話は広がっていきます。突拍子もない自説をかかげながら緻密に歴史をひもとき、最後には無理矢理結論づけてしまう。異形の歴史ミステリー、とでも紹介できるでしょうか。歴史にうとい僕なんかは、ひょっとしたら真相はこうだったのかも、とまで思ってしまいます。文句なく面白い一冊です。

・「墨攻/酒見賢一」
墨攻 (新潮文庫)著者は、「後宮小説」という作品で第1回日本ファンタジーノベル大賞を受賞しました。中国史を題材にした小説が得意で、本作は、諸子百家の時代に暗躍した墨家という集団を題材に書かれた作品です。僕はもちろん中国史も苦手で、最初のページから難しい漢字の人名や地名が頻出して挫折しかけましたが、読み進めるうちにどっぷりと面白さに浸っていきました。
墨家と呼ばれる思想集団が存在したことは史実です。墨家は義を重んずると同時に戦闘のプロ集団であった、というあたりから著者の創作が入ってきます。墨家の戦い方は、徹底的に守ること。絶対的不利な条件の中で、リーダーの革離(かくり)は超人的な指導力をもって戦にのぞみ、戦果をおさめていきます。
とにかく革離の徹底した戦法に圧倒されます。敵がこう攻めてきたらこう守る、次にこう来たらまたこう防ぐ、このやりとりが無類に面白く、革離の人間性もまたそこに見えてきます。こんな短い小説(文庫本で150頁足らず!)の中に、よくぞここまで深い内容を収められたものだと感心します。中国関連がお好きな方には絶対にお勧めの作品ですし、僕のように中国苦手、漢字苦手という方も、最初の10ページだけ我慢して読んでください。面白さは保証しますので。

・「海と毒薬/遠藤周作」
海と毒薬 (新潮文庫)こちらは一転して近代になりますが、太平洋戦争中に九州帝国大学で起きた、捕虜の人体実験を題材にした小説です。主人公の勝呂は医学部の学生で、学内の過激な派閥抗争や出世レースについていけない“おちこぼれ”です。いっぽう、同僚の戸田は全てを割り切って世の中を渡っていきます。人体実験ならば医学の役に立つから、人を殺してもいいのか。勝呂は苦悩します。そして、本書を読む者もまた同じ苦悩を味わうのです。
遠藤周作といえば「沈黙」が代表作として挙げられますが、今の読者にはやや読みづらい作品でもあります。対して本作は、文庫本で170頁ほどという文量ですし、文章も平易で非常に読みやすいですので、お勧めです。

とまあ、この分野にさほど通じていない僕でさえ、こうしていくつか挙げられますので、いつの世でも一定した人気のあるのがこの分野なのでしょう。ずっと以前にこちらでご紹介した「クレーヴの奥方/ラファイエット夫人」なども、16世紀なかば、アンリ二世統治下のフランスを舞台に、史実と想像が入り乱れる小説でした。300年以上前からこうした作品が書かれていたんですね。

ところでこれを書いていて思い出したのが、その昔WOWOWで放映されていた「ダークスカイ」という海外ドラマです。あまり話題にはならなかったので、ご存じの方は少ないかもしれません。Wikipediaでは、下記のように紹介されています。

“1960年代に起きた歴史的事件は全て宇宙人の仕業によるものであった”という大胆な設定で描いている。1960年代を細部に至るまで徹底的に再現しており、実在の人物も政治家、軍人、ジャーナリスト、科学者、芸能人に至るまで多数登場する。

これ、僕はけっこう好きで見てました。ロバート・ケネディが実は宇宙人グレイと闘っていた、というようなトンデモなお話でしたが、実際の映像とうまく合成されていて、よくできていたとは思います。(冒頭の画像はこの作品のパッケージです。訳のわからない画像を出して申し訳ありません!)

最後に、「ゴランノスポン」に関する著者のインタビュー記事がネットにありましたので、ご紹介しておきます。でも、町田康にはあんまりこういう“ちゃんとした”ことは語ってほしくないなあと思ったりもします。
◆町田康氏のインタビュー(新潮社サイト)

この記事を書いた人

春名 孝
春名 孝本と動物と珈琲好きのペットシッター
読書会メンバーの中では年長組に入りますが、毎回とても楽しく過ごさせてもらっています。スロース読書会は、人付き合いもおしゃべりも得意ではない僕さえ包み込んでくれる、心地のよい居場所なのです。

ブログでは、読書会関連として、本の話題を中心にお届けする予定です。ただ、極端に遅読なため、最新本は扱えません。僕のお気に入りの本を、なんとか現代の話題とリンクさせ(ることを目標にし)つつ、映画やその他の話題にも触れていきたいと思っています。

ちなみにペットシッターとは、飼い主さんのご自宅で、ペットのお世話をする仕事です。1967年、兵庫県に生まれ、名古屋での25年を経て、岡崎にたどり着いた今。近隣市を駆け回り、いろんなペット達と触れあう、ふかふかな西瓜糖の日々。

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