連続ハルキ小説 「もしもスロースに村上春樹の小説の主人公が来たら」第3話
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僕の部屋は、小さなキッチンと清潔なベッドルームだけの、いささかセクシーさには欠けるものの、信頼と良識をモットーとした保険会社のような、質実なアパートメントだ。
そこに今、僕とノロ子(驚くべきことに、彼女はナマケモノだ)と、ビーチボーイズが、奇妙な三角形をつくっている。
やれやれ、こめかみに鉛を埋められたような気分だ。
ノロ子はそんなことにはかまわない様子で僕に尋ねる。
「あなた、ムラカミの新作『女のいない男たち』は読んだ?」
まだ読んでいない。
「あの作品は、このアルバムを意識しながら書かれたんだって」
ペットサウンズ。カルフォルニアが生んだ1966年の奇跡。
もしこの世に完璧なレコードというものがあるならば、それはこの作品のことを指すに違いない。
僕はティーンエイジャーの頃からずっと、このアルバムを心から愛してきた。
「私の父がよく言っていたわ。『ビーチボーイズは素晴らしい。しかし、人生の奥深さをビーチボーイズだけで説明することは不可能だ』って」
なるほど、その通りだ。
人生には時として、ブライアン・ウィルソンにも想像できないことが起こる。
ナマケモノと共に過ごす、この夜のように。
(しかし、このナマケモノの父親はどこでビーチボーイズを聴いていたのだろう?)
「でもね、ビーチボーイズの素晴らしさを誰かと語り合うことは、誰かの人生を、そして自分の人生を理解することの手がかりになるんじゃないかしら」
彼女の言葉は、それまで混沌としていた僕の頭の中に、稲妻にも似た、ある種のインスピレーションを呼び起こした。
「つまりそれが」
僕はまるで、あらかじめ決められているセリフを言わされるかのように、口を開いた。
「読書会のレゾンデートル、存在意義である。そう言いたいんだね?」
「嫌いじゃないわよ。勘のいい男の人って」
そう、彼女には全てお見通しだったのだ。
大学病院に備えられた最新型のMRIのような、無慈悲なまでの正確さで。
そのことに気づいた僕は、ノロ子に全てを打ち明けたいという、激しい衝動にかられた。
それはまるで、マレーシアの熱帯雨林に降るスコールのような激しさを思わせた。
「ねえ。ノロ子。僕は、ずっと寂しかったのかもしれない」
ー続くー
-5月度喫茶スロース読書会-
日時:5月23日(金) 20:30~22:00くらい
会費:1000円(1ドリンク付き)
課題図書:村上春樹著 『女のいない男たち』
-ドリーミー刑事のブログ-
ドリーミー刑事のスモーキー事件簿:http://dreamy-policeman.hatenablo
この記事を書いた人
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ドリーミー刑事(会社員)
スロース読書会の常連。
日々、古今東西の素敵でキャッチーな音楽を追い求める夢見みがちなおっさん。B型。犬が好き。
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喫茶スロース読書会@愛知県蒲郡市
毎月第1金曜20:30からゆる〜く開催中!
本が好きな方、おしゃべりの好きな方、気軽にお越し下さい。
喫茶スロース読書会はコーヒーやビールを飲みながらその月の課題図書について感想や意見をシェアする会です。雰囲気はかなりゆるめです。
本をきっかけにおしゃべりする会ととらえていただいて、気軽に参加していただけたらうれしいです。
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2014年 5月 20日
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