12月度スロース読書会が開催されました

ペットシッターの春名です。先日、12月度のスロース読書会が開催されました。今回は、店主の清水さん、それから課題本選定をおこなったドリーミー刑事のお二方が揃って欠席という非常事態のなか、不肖・私(春名)が進行役を仰せつかりました。慣れない役に不行き届きがあったかと思いますが、参加者の皆さんが積極的に発言して下さったおかげで、なんとかいつもの雰囲気を保つことができました。

今回の課題図書は、町田康さんの短編小説集「ゴランノスポン」でした。現代の純文学を牽引する一人とも言える町田氏の作品だけあって、読みごたえがあるというか、読みごたえがありすぎて困っちゃうというか、そもそもこれをどう楽しんでいいのかわからないというか、とにかく意見は割れました。7つの短篇をざっくり分けると、「楠木正成」が歴史物、「末摘花」が源氏物語の町田康訳、それ以外が現代小説ということになります。おもしろいことに、7作のうちどれが好きかという点においては、参加者ごとに違う作品名があがりました。ポイントとしては、冒頭の「楠木正成」をどう評価するか。実際の歴史の町田的解釈として読んだ方、途中で挫折したという方、本作こそ町田康作品で他は普通の小説だったという方、様々でした。これが読み始めの作品のため、短編集全体の印象を決めてしまいがちですが、それでも他の作品を読んでみて「これなら読める」と思われた方もいらっしゃいました。

僕個人の意見を申し上げると、歴史にたいそう疎い人間なので、「楠木正成」を歴史の再解釈という観点では読み込めなかったのですが、途切れない文章のリズム感を楽しむことはできました。「末摘花」は時代考証そっちのけの町田康的解釈を楽しみ、たまたま手元にあった田辺聖子さん訳の源氏物語を読んで、実は本筋はけっこう忠実に再現されていることに驚いたりもしました。現代もの5作については、「一般の魔力」「尻の泉」がかなり気に入り、「先生との旅」も文章の心地よさを充分に味わいました。ただ同時に抱いたのは、僕がこれまでに読んだ町田作品「くっすん大黒」「きれぎれ」に比べ、かなり普通の小説だなあという感想です。しっかりしたテーマやオチがあるため、確かに腑に落ちて読みやすいものの、“町田色”はかなり薄れている気はしました。

今回は、さすがに年長者で純文学にも詳しいNさんの指摘に唸らされました。「一つの文章にいつの間にか別の主語が混ざってきて、それらが多層的なリズムを生み出しており、読んでいて心地良い」とか、「こうした感覚は文学でしか味わえない」といった指摘は、なんとなく感じていた読み心地の正体を教えてもらった気がして、そこを考えながらもう一度読んでみたい気になりました。

また、小説が目指すものとして、大きく分けると「何を書くか」と「いかに書くか」がある、というお話も伺いました。僕なりに解釈すれば、前者がいわゆる大衆小説(エンタメ小説)で、後者が純文学だということになるでしょうか。また、前者が「物語」、後者が「小説」という言い方もできると思います。エンタメ系の作家では、「俺は小説ではなく物語を書きたいんだ」と豪語されている方もいらっしゃいますが、ストーリー展開を楽しむというのはもちろん小説の大きな要素の一つであります。いっぽう、読んだこともないような文章表現で楽しませてくれるのもまた小説です。どういった小説が好きかというのは、読む人が小説に何を求めるかによって違ってきます。同じく「読書好き」が集まっている会ではありますが、今回の読書会では、各参加者の方々が何を求めて本を読み、どこを楽しんでいるのか、その違いを認識できて、とても意義深い体験となりました。

ちなみに、以前の課題図書だった村上春樹さんの「女のいない男たち」を思い出してみると、これも村上春樹独特のクセはかなり抑えられた、いわば“普通”寄りの短編集です。それゆえ、村上春樹初心者の僕なんかにも読みやすい作品でした。だから、これはほぼ間違っていないだろうと言えることは、本作もまた町田康の小説集としてはややおとなしめに書かれた作品であり、それゆえコアなファンには物足りなく思われるかもしれませんが、町田康を初めて読む人には入門書としてかなりお勧めだということです。冒頭でつまずきかけた時には、順番を変えて読んでみてください。そして、本作を気にいった方は是非、さらに町田康色の強い他の作品にも挑戦してみてください。文庫で850ページの「告白」とか。

この記事を書いた人

春名 孝
春名 孝本と動物と珈琲好きのペットシッター
読書会メンバーの中では年長組に入りますが、毎回とても楽しく過ごさせてもらっています。スロース読書会は、人付き合いもおしゃべりも得意ではない僕さえ包み込んでくれる、心地のよい居場所なのです。

ブログでは、読書会関連として、本の話題を中心にお届けする予定です。ただ、極端に遅読なため、最新本は扱えません。僕のお気に入りの本を、なんとか現代の話題とリンクさせ(ることを目標にし)つつ、映画やその他の話題にも触れていきたいと思っています。

ちなみにペットシッターとは、飼い主さんのご自宅で、ペットのお世話をする仕事です。1967年、兵庫県に生まれ、名古屋での25年を経て、岡崎にたどり着いた今。近隣市を駆け回り、いろんなペット達と触れあう、ふかふかな西瓜糖の日々。

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