11月度読書会のおしらせ.わかりあえないことから読書会をはじめよう

わかりあえないことから

ペットシッターの春名です。27日には久しぶりの読書会が開催されますが、前回のブログでお伝えし忘れたことがありましたので、そのお話から始めます。ヘッセの「車輪の下」関連図書の追加分です。

いまを生きる (新潮文庫)

いまを生きる (新潮文庫)

いまを生きる/N・H・クラインバウム
「車輪の下」と同じくギムナジウムもの、つまり寄宿舎で生活する少年少女を描いた作品です。実は当初、「車輪の下」ではなくこちらを課題図書にするつもりでした。以前は「新潮文庫の100冊」にも入る名作だったはずが、調べてみると既に絶版で入手しづらく、課題図書にするのをあきらめたのでした。
本作においても、少年達は苦悩します。とはいえ、「車輪の下」のハンスのように特別な一人をクローズアップするのではなく、群像劇としていろんなエピソードが平行して語られます。内向的な子もいれば、友人の彼女に猛アタックをかける積極的な子もいて、それぞれが悩みを抱えて生きています。ただ「車輪の下」と決定的に違うのは、理解を示し、導いてくれる教師がいることです。この国語教師は、厳格で古くさい教育制度に反旗を翻し、自らの信念のもとに授業を進めていきます。生徒達は大喜びで彼についていきますが、学校側は大慌てで彼を排除にかかります。幾多の悲劇を乗り越えたあとに訪れるラストには、涙を誘われることでしょう。本作は映画化もされ、こちらもいい作品に仕上がっています。教師を演じるロビン・ウィリアムスがなかなかのはまり役でした。

ということで、それでは次回の課題図書についてご紹介したいと思います。

わかりあえないことから/平田オリザ

著者の平田オリザさんを知ったのは、「演劇」というタイトルのドキュメンタリー映画でした。平田氏は、劇団『青年団』を主宰されている演劇家であり、映画ではまずその独特の作劇法が描かれます。
例えばホテルのロビーが舞台だったとします。2人組、3人組ほどのグループがいくつかあって、彼らがそれぞれに全く関係のない会話をしています。ここで各人は勝手にしゃべっているようだけれど、実は全員の発話タイミングが厳密に規定されており、あるグループのAさんが一つの言葉を言い終わった1秒後に別グループのMさんがしゃべり始める、などということが延々と続いていきます。通し稽古の風景を見てみると、途中で平田氏が「ちょっと待って」と進行を止め、「BさんのあとのDさんのセリフ、1秒遅くして」とか「Fさんの歩き出すタイミング、あと0.5秒早く」といった指示が出されます。こんな気の遠くなる練習を延々と繰り返した結果、各人がまったく自由に、脚本などないかのように話をしている風景が出来上がるのです。

演劇1・2 [DVD]映画の後半では一転、平田氏が演劇を通してどう社会に貢献しているかが描かれます。演劇に必要なものは情熱でも演技力でもなく、ずばり、お金です。お金がなければ活動を続けられない。だから、政財界に働きかけ、演劇の場を提供してもらったり、補助金をもらったりする必要があるのです。
ここで最も有効な“提携先”は教育現場だといいます。小中学校にでかけていき、課外授業をおこなうことで、演劇を知ってもらい、身近に感じてもらう。教育側は、子供たちの成長という名目からそれを大喜びで受け入れてくれる。互いの利害が一致するわけです。
正に今はコミュニケーション力が必要とされる時代だから、それをアピールすれば、社員教育にだって結びつきます。平田氏はそれこそスーパーマンさながらに各地を飛び回り、信じられないスケジュールをこなしていきます。映画は前後半合わせて5時間42分という長さですが、全く苦痛に感じません。もし余裕があれば、読書会の前後に、この映画をご覧になってみてください。

さて、今回の課題図書では主に、上記の映画の後半部分、つまり演劇がどう社会に貢献できるのかを、“コミュニケーション”というキーワードで探っていきます。
現代社会において重要だとされている“コミュニケーション”においては、“人と人とはきっとわかりあえる”という大前提があり、それを目指して努力しよう、ということになっています。でも平田氏は、だからこそ失敗する、と言います。なぜなら、人と人とはそもそも、わかりあうことなんてないのだから、と。
「僕は、劇団員が何を考えているかなんてわからない。知りたくもない」
平田氏はそう言い切ります。そして、人と人とは本来わかりあえないものだという出発点に立ち、そのうえで少しでも有効で快適な関係を築こう、という方法論を提案されています。

会社の人事などでも、コミュニケーションとか社交性ということが盛んに言われます。でも、僕の見るかぎり、ちゃんとそれを理解し実践している人はいないのではないかと感じます。社会ではとにかく明るく社交的な性格の人間が高く評価される傾向にあります。結果、体育会系の押しの強い人(ラグビー部経験者はいまだ人気がありますね)が好まれ、幅を利かせるようになります。ただ、それが社会に有効に機能しているかというと、そんなことはない。僕の経験上、社交性が高くてどこでも友達を作ってしまうような人物でも、仕事ができない人はたくさんいます。
会社で必要なコミュニケーションとは、人と仲良くなる能力とイコールではありません。そこを勘違いしているから、いつまでも会社の風通しはよくならず、誰も望んでいない忘年会や親睦会ばかりが増えていく。そんな気がします。

というわけで、次回の読書会は11月27日(金)の20:30に開催されます。コミュニケーションをキーワードに、いろんなお話をしてみたいと思っていますので、ぜひたくさんのご参加をお待ちしています!

それでは、100億超の資産を持つベルリン美女を手玉にとり、聞きしにまさる大男とのじゃんけん勝負を7回連続チョキでしのぎ切ったドイツ旅行のお話は、次回こそ詳しくお話しできると思います……というか、こんなことばかり書いているとまた怒られそうなので、こっそりアップしている個人サイトのほうをご覧になって頂ければと思います。
こっそりドイツ旅行記

この記事を書いた人

春名 孝
春名 孝本と動物と珈琲好きのペットシッター
読書会メンバーの中では年長組に入りますが、毎回とても楽しく過ごさせてもらっています。スロース読書会は、人付き合いもおしゃべりも得意ではない僕さえ包み込んでくれる、心地のよい居場所なのです。

ブログでは、読書会関連として、本の話題を中心にお届けする予定です。ただ、極端に遅読なため、最新本は扱えません。僕のお気に入りの本を、なんとか現代の話題とリンクさせ(ることを目標にし)つつ、映画やその他の話題にも触れていきたいと思っています。

ちなみにペットシッターとは、飼い主さんのご自宅で、ペットのお世話をする仕事です。1967年、兵庫県に生まれ、名古屋での25年を経て、岡崎にたどり着いた今。近隣市を駆け回り、いろんなペット達と触れあう、ふかふかな西瓜糖の日々。

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