ペットシッターの春名です。ご無沙汰を致しております。……と書くと、なんだか上の画像が話しているようでやや気持ちが悪い感じがしますね。この書影、来たる2月5日(金)の読書会の課題図書なんです。今回も私が選書を担当し、当日の進行も担当することとなりましたので、本の紹介をすこしだけしておきますね。
津原泰水という作家さん、実は僕も読むのは初めてでした。活動の場からしてエンタメ系作家といえますが、文章は実に味わい深く、作品のジャンルも幻想小説からホラー、SF、戦争文学と、非常に多岐に渡ります。本作にはタイトルどおり11の短篇が収められており、それぞれがまったく違う毛色で楽しませてくれます。
まずは冒頭の「五色の舟」。語り手を含む5人の不具者たちが舟に住み、見せ物興行をして暮らしています。一座はあるとき、“くだん”という、頭が人間で体が牛の怪物を買おうと思い立ちます。“くだん”には見た目の異常性にくわえ、未来を正確に予知できる能力がありました。興業で生きていくためになんとか“くだん”を手に入れようと、一座は画策します。ところが実は“くだん”にはさらなる能力があって、予想外の事態が訪れます。ここまで江戸川乱歩的な幻想風味だった小説が、一気に別ジャンルへと飛躍するのです。その意味で、伝統ある文学性と現代性とを兼ね備えた、この作家の特質がよく現れている作品といえそうです。
他にも、とぼけた味わいで一風変わったホラーの「微笑面・改」(途中の「触れた!」には思わず吹き出しました)、世界昔ばなし風の「琥珀みがき」、純文学風の「YYとその身幹(むくろ)」、ハードSFの「テルミン嬢」と、どれも素晴らしくて読みごたえたっぷりです。
そして11編の最後を飾るのが、「土の枕」。戦時に名前を偽って戦場に赴いた青年が、数奇な運命をたどります。わずか20ページ足らずの小品なのに、歴史小説、戦争小説として白眉の仕上がりとなっています。これは文壇にも広く認められており、「超弦領域 年刊日本SF傑作選」に収録されるばかりか、集英社の大全「戦争×文学」シリーズにも収録されるという快挙を成し遂げています。
というわけで、現代作家の短編集としては相当にレベルの高いものの一つといって間違いはないでしょう。短い話がぽんぽんと連なって読みやすいですし、短い割にどすんと胸に重たく残る作品もあります。いろんなジャンルが混ざっていますので、どれか一つは自分の好みに合うものが見つけられるのではないかと思います。読書会では、どの作品がいちばん気に入ったかを教えてもらえると非常に嬉しいです。おそらく票は割れるのではないかと予想しています。
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読書会メンバーの中では年長組に入りますが、毎回とても楽しく過ごさせてもらっています。スロース読書会は、人付き合いもおしゃべりも得意ではない僕さえ包み込んでくれる、心地のよい居場所なのです。
ブログでは、読書会関連として、本の話題を中心にお届けする予定です。ただ、極端に遅読なため、最新本は扱えません。僕のお気に入りの本を、なんとか現代の話題とリンクさせ(ることを目標にし)つつ、映画やその他の話題にも触れていきたいと思っています。
ちなみにペットシッターとは、飼い主さんのご自宅で、ペットのお世話をする仕事です。1967年、兵庫県に生まれ、名古屋での25年を経て、岡崎にたどり着いた今。近隣市を駆け回り、いろんなペット達と触れあう、ふかふかな西瓜糖の日々。
・お仕事サイト「ペットシッター・ジェントリー」
・Facebook(お仕事用)
・個人サイト「Sea Lion Island」
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2016年 2月 04日
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