旅するペットシッター

喫茶スロース

ペットシッターの春名です。今年の夏はあっけなく幕を引いたようで、残暑に悩まされる暇もなく季節は変わろうとしています。ペットシッターの仕事も、お盆を過ぎれば大きな波が去っていき、連休が入るとまた小さな波がやってきます。どんな波にも乗り損ねることのないよう、体調にはじゅうぶん気をつけています。

ミリオンダラー・ベイビー [DVD] ところで先日、クリント・イーストウッド監督・主演の映画「ミリオンダラー・ベイビー」を見ました。二度目の鑑賞でしたが、実に様々なことを考えさせてくれる作品で、一緒に観た妻と二人、しばらく思いつくままに語り合いました。
この映画が多くの人の胸を打つのは、「優れた解答を与えてくれる」点ではなく、「優れた問いかけを与えてくれる」点にあると思います。主人公のとった行動が正解だったのか間違っていたのか。観客はこの映画を観ている間じゅう、また見終わった後でさえも考え続けます。

“いい映画”とはこのように、映画鑑賞という枠を超えて、自分の人生に関わってくる作品だと思います。その意味で、9月の読書会の課題図書「弱いつながり/東浩紀」にも、たくさんの優れた問いかけがありました。それら一つ一つについて、読書中も、また読み終えた後でも、「自分はどう考えるか、自分ならどう行動するのか」と問い続けます。これはとても素晴らしい読書体験になることでしょう。
さて、この本の中では、「四の五の言わずにとにかく旅に出ろやヴォケ」という意味合いのことが、もうすこし丁寧な言葉で書かれています(笑)。僕も大の旅行好き、とくに海外旅行好きなものですから、これまでいろんなところへ出掛けていきました。そこで今回は、旅に関する本をいくつかご紹介してみたいと思います。とりあえずベタなところからいってみましょう。

●深夜特急/沢木耕太郎
深夜特急〈1〉香港・マカオ (新潮文庫) 僕ら世代の人間にとっては、ベタ中のベタかもしれませんが、僕もやはりこの本に夢中にさせられました。特に、海外へでかける飛行機の中で読むのが最高で、わくわく感がとまらなくなります。本書は1990年代に大沢たかおさん主演でTVドラマ化され、そちらもとてもいい作品でした。
僕は、沢木さんの旅に対する向き合い方がとても好きです。こうした貧乏旅行を続けているとどうしても、旅の目的を見失いがちです。そして、いかに安く済ませるか、いかにたくさんの国を訪れるかだけに日々を費やしてしまい、そこにのみ価値を見いだすようになる。沢木さんもそうした成り行きを経験しつつ、それを客観的にとらえて修正していきます。完璧に考え方を固定してしまわず、いつも悩みつつ、それでも前向きに、その場その場での身の振り方を決めていく。その過程が如実に文章に表現されていて、共感を覚えます。
本書のヒットにより、個人旅行ブームが起きたといいます。同時に、「事前に現地のことを調べて予定を組むより、何も調べずに現地に飛び込んだほうが面白い」という考え方が、旅の“本当の楽しみ方”のようにもてはやされてきた気がします。でも僕はそうは思いません。自分で計画を立てる時には、事前に調べられることは調べて、およその予定を立てておきます。そのうえで、現地の状況に合わせて柔軟に予定を変えることを厭わない。旅行を重ねるうち、それが僕のスタイルとなっていきました。
同様なことが読書会の課題本「弱いつながり」においても述べられていましたが、旅行者は多くの場合、観光地を巡る“お手軽な旅”派か、“秘境を巡るディープな旅”派の、どちらかにばっちりと分かれてしまいます。そして大概、後者が前者を見下したりする。でも、観光地を巡る旅だって、バカにしたもんじゃないのです。僕はロンドンやパリの観光地は大好きですし、南米最南端の果てにある孤島へ日本から45時間かけて行くことも大好きです。どちらにもそれぞれの良さがあり、新しく得られるキーワードもたくさんあるはずです。

●「パタゴニア~あるいは風とタンポポの物語り/椎名誠」
パタゴニア―あるいは風とタンポポの物語り (集英社文庫) 椎名誠さんといえば、世界各地の秘境を旅し、それを独特のノリの文体でポップに描くのが特徴で、それを楽しみに読んでいる人も多いと思います。僕ももちろんその一人ですが、本書はそうした作品群とはやや趣を異にします。
旅作家としての地位を確立してからもなお世界各地を飛び回る椎名氏が、1983年に選んだ場所がパタゴニアでした。パタゴニアとは南米最南端の一帯のことで、日本からはほぼ地球の真裏にあたる場所です。椎名氏はその旅の直前、奥様の異変に気づきます。家族を放って自分の道を突き進む夫を陰で支え、マスコミからのひっきりなしの電話に追われるうち、いつしか心身のバランスを崩していたのです。不安を抱えながらもかかりつけの精神科医に妻をまかせ、椎名氏は旅立ちます。旅先でどんなに素晴らしい景色を見ようと、常に不安が頭から離れません。
『もう自分の帰るところはないのではないか』
いつになく重く沈鬱な記述がつづきます。そんな椎名氏の目の前に現れたのは、野に一面、咲き誇るタンポポの花でした。
本作の副題にある「風」は椎名氏を、「タンポポ」は奥様のことを指します。パタゴニアの大自然を見つめるなかで、夫婦の絆を一から辿り直す、それは椎名氏の心の旅でもありました。だからこれは旅行記というよりも、椎名氏本人の私小説とも言えます。本当に素敵な一冊です。

●「旅をする木/星野道夫」
旅をする木 (文春文庫) 星野道夫さんのことは、「地球交響曲第三番」という映画を見て知り、以来大好きな写真家となりました。本書はこの映画の中で紹介されていたもので、さっそく入手し、読んでみました。
星野さんがアラスカに心を惹かれる過程や実際に移り住んでからの生活が、エッセイ形式でつづられます。なんという瑞々しい感性、そして文章なのかと驚かされました。星野さんは文章を専門に勉強されたことはないと思うのですが、飾らない言葉のひとつひとつが深く心にしみいっていく、これは確かに名文です。
そして、ただキレイキレイなだけでなく、常識にとらわれずに人間の心の深い部分まで潜り込み、それでいてダークさを全く感じさせない。これは奇跡です。悲しみを隣に湛えてこそ成り立つ喜び、死と背中合わせだからこそ感じる命の尊さ。人間存在の本質を感じさせてくれる一冊です。読むほどに深い内容で、人生観、生命観において、僕の思っていた方向性をより強めてくれるものでした。
もし書店でみかけたなら、最終章の「ワスレナグサ」だけでも読んでみてください。ほんの6ページほどの中に、星野さんの人生がすべて詰まっています。

この記事を書いた人

春名 孝
春名 孝本と動物と珈琲好きのペットシッター
読書会メンバーの中では年長組に入りますが、毎回とても楽しく過ごさせてもらっています。スロース読書会は、人付き合いもおしゃべりも得意ではない僕さえ包み込んでくれる、心地のよい居場所なのです。

ブログでは、読書会関連として、本の話題を中心にお届けする予定です。ただ、極端に遅読なため、最新本は扱えません。僕のお気に入りの本を、なんとか現代の話題とリンクさせ(ることを目標にし)つつ、映画やその他の話題にも触れていきたいと思っています。

ちなみにペットシッターとは、飼い主さんのご自宅で、ペットのお世話をする仕事です。1967年、兵庫県に生まれ、名古屋での25年を経て、岡崎にたどり着いた今。近隣市を駆け回り、いろんなペット達と触れあう、ふかふかな西瓜糖の日々。

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